白井亨さんのこと―― 2年半の市議時代と、これから

2006年に小金井市に引っ越してきた。
その秋、「ごみ非常事態宣言」が出され、市役所の柵に黄色い横断幕が掲げられた。

野川沿いの雰囲気が気に入って小金井(の坂下)を選んだけど、なんだかとんでもないところに引っ越してきてしまったのかもしれないと不安になった。
それから市内で起こっていることを気にするようになり、何年かのうちに、このブログをやったり、twitterをやったりして、少しずつ知り合いが増えた。
そうやって知り合った友人の一人が、白井亨さんだ。


2013年春に白井さんは、会社員を辞めて市議会議員の選挙に立候補した。
友人として応援していて、正直もっと楽に当選できると思っていたけれど、けっこうギリギリだった。たぶん本人も楽観視していたので、選挙の現実の厳しさを突きつけられたと思う。「この人、これから大丈夫かな」と不安にもなった。
でも、議員になった白井さんは、「人が10年でやることを3年でやる」と言い切った。「聞こえのいいことを…」と感じなくもなかったが、彼はほんとうに私利私欲を捨ててやった。
「議員の身分」が目的ではなく、「自分の住む町をよくすること」が目的だということが彼のなかでははっきりしていたから、そのために、いろいろな講座やワークショップに足を運んで、休みなく勉強し、市政にフィードバックしようとしていた。

その白井さんが、10月30日で市議を辞職した。12月13日の市長選に向けた新たな挑戦である(公式サイト)。展開早っ。

そのことを聞いて、あらためて白井さんの2年半の市議時代を振り返ってみた。一番感心したのは、その情報発信力、そして、それと両輪をなす行動力だ。
というか、「感心した」なんて“上から”な言い方ではなくて、純粋に「ここまでやってたのか。すげーな」という気持ちです。ほんとに。


378回
これが2年半の市議時代のブログ更新回数だ。彼以外にこれだけの発信をした市議がいるか。一人もいない。
今回の市長選の立候補予定者でいえば、五十嵐氏のブログ更新が月に2〜3回程度。
都議時代の西岡氏は、「ブログ毎日更新!」を謳っていただけに更新数は多いが、民主党会派としての単なる報告や菅直人氏の活動の紹介も多く、個人の活動としては、「こんな行事に参加しました」という日記的なものが目立つ。
岩渕氏は色んなところで立候補しては落選している人なので、そもそもよくわかりません。
もちろんブログだけじゃなくて、白井さんはfacebooktwitterも頻繁に更新している。
「それって、単にネットに垂れ流してるだけでしょ?」
全然違う。いや、ネットに垂れ流しつづけるだけだってどんだけ大変なことかと思うが、彼は、『噂のこがおもマガジン』という市議会レポートもほぼ隔週(途中からほぼ月刊)で33号も発行、それに加えて4ページカラー印刷の拡充版を通算10号出している。どちらも文字が詰まりすぎるくらい詰まった情報量の多いものだ。
さらに、「議会カフェ」と銘打って、支持者向けではなくて誰でも――ほんとうに誰でも――「市議会で何が起こっているのか」を知ることができる集まりを、延べ30回近く行なった。最初は週末中心だったけど、平日の昼間に、あるいは平日の夜に、という声があれば、それもやった。個別に希望があれば、個人向けにもやった。
たとえば、この「議会ナイト」のスライドを見て欲しい。自分の主張を訴えるためだけではなく、市議会で何が起っているのかをわかりやすく説明するために、1回の「ナイト」のために103枚ものパワポを準備している。
これだけのことのうち、どれ一つとっても、「やり続けること」は実にたいへんだったと思うけど、彼はそれを全て「やる」と宣言し、実際にやり続けた。駅頭にも立ったけど、「駅頭でマイクを握るだけで伝わるのか」ということを考えて、いろいろな情報伝達手段を模索した。
そして大事なことだけど、彼はそれを、政党などの組織に属してやったのではなく、どこにも属さない個人として実行し続けたのだ。個人としての彼に力を貸そうという、ごく普通の市民たちとともに。


いま思い返してみると、わたしが小金井に住み始めてから、「ごみ非常事態宣言」だけでなく、「市庁舎問題」「交流センター問題」と、いつも何かしら“争点”とされる「問題」が取り沙汰されてきた。
それら一つ一つについて、稲葉市政に何らかの問題があったのだとは思うが、公平に見て、そのときに「反稲葉」の立場からの政策が全面的に正しかったかはわからない。なぜなら、それは実現しなかった歴史だから。
ただ、市民の一人として何よりもフラストレーションを感じさせられたのは、行政側の「応答能力の無さ」だった。
「応答能力の無さ」というのは、市民に対する説明能力というレベルでもあり、また問題への実際の対処能力というレベルでもあるけれど、とにかく「稲葉市政は、いったい何を考えているの? どうするつもりなの?」と感じさせられることが多かった。
それらの問題のなかには、ごみ処理のように、小金井市の中だけでは解決できない問題があり、それを何でもかんでも「情報公開」することはできないという事情もあったかもしれない。でも、それ以外のことについては、もやもや感が残ることが多かったのは間違いない。


幸い、ごみ処理施設については、日野市・国分寺市との共同処理が進展しつつある。それが「稲葉さんの功績」かというと、そもそも問題をこじらせたのが稲葉市政だったとしたら、多分にマッチポンプの側面があると思うが、ともあれ、今は巨大な“外交問題”が一段落しているのは事実である。
そんな今は、地味だけど絶対に避けて通ることができない、そしてどんな施策を行うにあたっても根本にある、「財政問題」に正面からしっかりと取り組むチャンスだと思う。しかしそのためには、「ここの予算を減らす」「この施設を縮小する」という、必ず反対者が出てくる施策も進めなければならないだろう。
だからこそ、次に市長になる人は、議会で突っ込まれて、あるいは市民に迫られて、口ごもってしまうのではなく、どういう小金井市にするのか、そのために何が必要なのかを誠実に自分のことばで語り、市民の問いかけに自分のことばで答えられる人であってほしい。
もちろんどんな候補者だって、市長選が近づけば街頭演説に立ち、ウェブサイトも作る。Facebookもやって情報発信をする。「いいね!」の数だけ見れば、そんなに違わないように見えるかもしれない。それぞれ「支持母体」があるのだから。
でも、選挙のときだけ大騒ぎする人のウェブサイトが、選挙のあとにどんな廃墟になるのか、ちょっと調べればすぐにわかる。今の市議たちのサイトだって、市議選以降ほとんどメンテナンスされてないものが多々ある。
白井さんは、決してそんなことはないということを、2年半の市議時代に、身をもって証明してきた。


11月に入って、小金井 宮地楽器ホールの「スペースN」で、「白井deナイト」と銘打った集まりが何回か行われている。
「白井ってどんな人?」「どんなことを言うの?」という興味をもった人が、ふらりと入って、話を聞き、質問をし、答えを得ることができる。
ロータリーに面したガラス張りの場所で実現している、この風通しのよい空間が、小金井市政の未来像であることを心から願っています。