民主主義のコスト

銚子市長のリコールと、その後の市長選をめぐる報道が毎日新聞に掲載されていた。

銚子市長選:リコール何だった? 賛成派が4分裂
 千葉県銚子市の市立総合病院の診療休止に端を発する出直し市長選(10日告示、17日投開票)が「百家争鳴」の様相。休止に反発して市長リコール(解職)を成功させた市民グループから4人が名乗りを上げ、リコール賛成票は事実上4分裂。失職した前市長らも出馬の構えで、市民からは「リコールは何だったの」と戸惑いの声が上がっている。【新沼章】

 ◇10日に告示
 岡野俊昭前市長(63)が昨年7月、財政難から病院(393床)の休止を決めたのが発端。10月1日の休止直前まで患者は転・退院で混乱し、リコール運動の母体「何とかしよう銚子市政・市民の会」が結成され、必要な署名数を確保。今年3月の住民投票で賛成2万958票、反対1万1590票でリコールが成立した。
 前市長失職後、リコール推進派から、会社社長の茂木薫(58)▽市立病院の元勤務医、松井稔(45)▽市議の石上允康(みつやす)(63)▽塾経営の高瀬博史(59)の4氏が名乗りを上げた。4人とも会メンバーだが、「会は役割を終えた。分裂ではない」と口をそろえる。
 一方、失職した岡野氏は、リコール派の動きをにらみ、消極姿勢から一転出馬を決意。「病院を再開できるのは自分だけ」と訴える。06年市長選で岡野氏に敗れた元市長、野平匡邦(まさくに)氏(61)も、返り咲きを狙う。
 6人全員が「病院の早期再開」を公約にするが、再開後の経営手法などに微妙な差がある。そもそも医師不足の深刻化ですんなり再開できるか疑問視する見方もある。
 「民主主義のコスト」もばかにならない。住民投票の経費は2300万円だった。出直し市長選の2800万円は09年度予算からひねり出すが、いざという時に使える基金は580万円しかなく、市幹部は頭を抱える。
 住民投票の結果から単純には推測できないが、岡野氏の返り咲きもあり得る情勢。財政難に端を発した病院休止問題が、計5100万円かけてリコール前に戻るとなれば、文字通り「元のもくあみ」となる。

毎日新聞 2009年5月8日 11時16分(最終更新 5月8日 11時37分)

銚子市長選:リコール何だった? 賛成派が4分裂 - 毎日jp(毎日新聞)

首長の解職請求や議会の解散請求は、地方自治法に定められた制度で、住民の直接参政の手段として確保されている。
(ネットでちょっと検索したなかでは、岡英彦・江別市議の「直接参政の制度」という記事がわかりやすかった。)
ここで「民主主義のコスト」という表現を使って、このリコールについて何か物申したいのであれば、民主主義を成り立たせるための他の制度(首長選挙、市議会選挙をはじめとして)と比較しなければ何も言ったことにならないのではないか。

  • 他の制度が必要とする「コスト」はどの程度なのか。
  • 他の制度は、それぞれに相応の「コスト」をかけた甲斐のある「ベネフィット」をもたらしているのか。(たとえば、投票率が50%にも満たず、何の具体的な政策提言もない候補者が顔を並べるだけの選挙を経て議会のメンバーを決めることが、「民主主義のコスト」という観点から何の問題もないのか、とか。)

そういったことが言えていなければ、単なる「揶揄」でしかない。

6人全員が「病院の早期再開」を公約にするが、再開後の経営手法などに微妙な差がある。そもそも医師不足の深刻化ですんなり再開できるか疑問視する見方もある。

候補者の公約の違いに取材と分析のポイントがあるはずなのに、「微妙な差」といった表現でお茶を濁していては、新聞記事として何の役にも立たない。

小金井市住民投票制度については、以前、露口哲治市議が、

自治法では市役所の移転には議会の三分の二の議決が必要とあります、安易に市町村の住民投票条例を利用して市役所の場所を決めても、上位法で三分の二と決められている以上、小金井市では住民投票に必要な2,000万円〜2,500万円といわれる経費はムダになってしまいます。

++てつじの日記++

という乱暴な記述をしていたのが記憶に新しいが(それはわたしだけか(笑))、コストがかかることを正しく認識する必要があるのは当然であるものの、同時に、コストがかかっても制度を設けるべき/投票をするべきかどうかということに関心を導かなければ、生産的議論にはならないだろう。(投票結果を尊重しないことを前提として「尊重されないのだからムダだ」などというのは論外。)